レビュー

TOP → レビュー → 206 『ゼルダの伝説 夢をみる島DX』

ピッ ピッ ピッ ブッ ブッ

B:「なに? ゲームウォッチやってるの?」
娘:「あ、先生。これはゼルダの伝説ですよ」
B:「ゼルダのゲームウォッチはダブルスクリーンで、日本未発売だぞ。
 どう見てもそれはワイドスクリーンサイズだが」
娘:「これですよ、マリオも出てたじゃないですか」
B:「ああ、あったね。数十年前の事は覚えてるのに、ここ数年の記憶が曖昧で……」
娘:「ああ、ええと……」
B:「なぜ目をそらす?」
娘:「……ドンマイ?」
B:「くっ、ちょっと見せて」
娘:「どうぞ」

 ──30分後

B:「うーん、思ったよりずっといい。
 初代ゼルダやリンクを今さらやる気にはならないが、バーミンは短時間で遊ぶのにちょうどいい。
 なにより当時欲しくても買えなかったゲームウォッチを持ってる、ってのが嬉しい。
 机に飾っておきたいが、スタンドがないのが唯一の欠点かな」
娘:「隠しコマンドで、リンクのタイムアタックもあるんですよ」
B:「えー、凄い!
 過去の資産でチョロく儲ける類のアイテムだと思ってたが、反省した!」
娘:「もうちょっと言葉を選んだ方が……」
B:「久しぶりにゼルダをやりたくなった。
 スイッチでリメイクもされたし、夢をみる島でもやるか」
娘:「貸してあげますよ~」
B:「おまえがやるんだよ」
娘:「なんで?(´;ω;`)ウゥゥ」


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 嵐の中を漂流する小舟。
中にはリンクが乗っていて、この大自然の脅威と闘っている。

 電源ONで、すぐこのデモが始まる。
しょっぱなから緊迫感にあふれるいいオープニングだ。

 しかし落雷により難破、見知らぬ島へと流れつく。
浜辺で倒れるリンクを見つける少女。
開始から1分も経ってないが、物語の始まりを感じさせる。

 そしてカメラは空にスクロールしていき、タイトル画面。
ゼルダメインテーマが流れる。
ディスクシステムのような重厚感は得られないが、GBらしいポップなアレンジは好印象。

 ゼルダが名作なのは、今さら解説する必要もない。
過去何作も発売され、ほぼ全てが高い評価を得ていたと思う。

 だが、個人的にはゼルダは好きじゃない。
理由は難しすぎるから。
しかもアクションの難しさと、謎解きの難しさのダブルアタック。
攻略本見てやるならいいかもしれないが、自力クリアは相当大変。
故に達成感が素晴らしいのだが、始めるには相応の気力が必要だ。

 気が付くとベッドの上にいる。
ゼルダ姫の声が聞こえたと思ったら、助けてくれた少女だった。
少女は見た目もゼルダ姫と瓜二つ。
彼女の名はマリン。
不思議な世界に入り込んでしまった感じを演出している。

 漂着した浜辺に持ち物が放置してあるというので、村を出て海へ。
まずは盾の使い方を覚えよう。
盾展開時は敵を押せる事を覚えておけ。

 剣を見つけるとフクロウが現れる。
この島にリンクが来ると同時に、魔物たちの動きが活発になったという。
リンクは目覚めの使者と呼ばれるが、現時点では何のことかわからない。

 ゼルダは非常に難易度が高い印象だが、この作品はフクロウというナビゲーターのおかげで、かなりマイルドになっている。
ただし、それは簡単という意味ではないので誤解しないことだ。
ゲームボーイでここまで忠実にゼルダを再現していることに驚くだろう。

 システム的にはいつもの感じ。
フィールドを探索し、ダンジョンに入って、ボスを倒す。
新たに入手したアイテムにより、探索範囲が広がっていく。

 海外ではこれをメトロイドヴァニアと呼ぶようだが、当然ゼルダの方が先に実装している。


 Lv2ボスのツボ魔王。
ツボがあるかぎり、何度でも蘇ってくる。

 ボスも中ボスも多数いて、様々な攻撃をしかけてくる。
よくこんなに思いつくな。
本当に感心させられる。
倒し方のヒントとなるメッセージも秀逸。
ただ難しいだけのゲームじゃない。

 今作の目的は「かぜのさかな」を目覚めさせるセイレーンの楽器を集める事。
この島から出るには、かぜのさかなを目覚めされるしか道はない。
全ての楽器を揃えて演奏すると、かぜのさかなは目覚めるというが……


 フィールドのイベントも面白い。
幽霊を成仏させる。
普通に移動していると、いつの間にか憑りつかれているのでビックリする。

 彼が生前住んでいた家に立ち寄り、その後、彼の眠る墓に連れていく。
スイッチ版では成仏させた後、彼の家に行くとコホリントの剣が手に入るという変更がされている。
彼の素性を想像させるいい変更だと思う。

 多彩なダンジョンも見どころ。
ナマズの大口とか、見た目のインパクトも凄い。
この世界を冒険するのが、本当に楽しい。



 ダンジョン内にサイドビューがあるのも今作の特徴。
『リンクの冒険』でサイドビューは採用されたが、今回はこれを上手く融合していると思う。
この世界を、より深く感じられる。

 でも一番素晴らしいのは、ヒロインであるマリンの存在だ。
今でこそミファー、ミドラ、サリアなんかがいるけれど、この初期の時代に、これはやられた。
その魅力をたっぷり語らせてもらおう。

 海の向こうに思いを馳せる少女。
村の人たちは海の向こうには何もないと信じているが、彼女は違う。
いつか島の外に……リンクの故郷を見たいと言う。
こんなイベントシーンが入っている所が素晴らしい。
これ、ゼルダだよ?


 そしてデートイベント。
彼女を連れて、世界中を歩き回れる。
コホリントだけでなく、外の世界も一緒に歩きたかったな。

 マリンちゃん関係はマジかと思うほど作り込まれていて開発スタッフにも愛されているのがよくわかる。
ぜひ様々なマリンちゃんを見て欲しい。



 DXで追加実装された写真屋は、当然の如くマリンちゃん多数。
絶対に、全部見て。
残念ながらゲームウォッチ版は無印なので、写真屋は存在しない。



 マリンちゃんの魅力を語るとキリがないのだが、ゼルダヒロインに限らず、ゲーム全体で見てもカワイイキャラだと思う。
ゲームボーイの、こんな昔の作品なのに、だよ?




 さてレビューに戻ろう。
サイドビューはボス戦にも採用されており、アクション性も増している。
このボスは落とされると最初からなので、かなりツライ。
しかしカッコいいよね。


 ここも好きなシーンだなー。
鏡の盾を使い、炎を割って先に進む。
プログラム的に考えたら火柱を短くする方が楽なのに、わざわざ2つに割る所が素晴らしい。
こういう手間を惜しまない所が、ゼルダシリーズが支持される源泉なんだろうね。



 物語が進むと、イヤな雰囲気が漂ってくる。
かぜのさかなとは、何なのか。
目覚めさせると何が起こるのか。
この島から出るとは、どういうことなのか。


 残酷にもそれは遺跡の壁画に明示されている。
フクロウからも同じ説明をされる。
この島は、かぜのさかなが見ている夢。
彼が目覚めれば、すべてが泡と消えてしまう。
それでもリンクはこのミッションを続けるのだろうか?


 全てを知りながら、淡々と任務をこなしていくリンクにはサイコパスっぽさを感じる。
リンクの感情はプレイヤーのモノなので、物語で語る事は許されない。
それでも、この島を救う方法を模索する姿くらい描けなかっただろうか。
結果失敗したとしても、勇者の挫折は物語的にも美しいと思うのだが。
蛇足かな?


 しかし、その時はやってくる。
セイレーンの楽器を集め、聖なるたまごの前で目覚めの歌を奏でる。

 曲もいいが、音源の使い方が素晴らしい。
ゲームボーイを極めてる。



 ラスボス戦。
かぜのさかなの目覚めを妨げているボスを倒せば、この世界は終わる。
善悪の立場が逆転しているような、居心地の悪さ。
本当に自分は正しいのかと、最後まで自問自答していたのを思い出す。


 戦いは終わる。
かぜのさかなは目覚め、コホリント島は消えていく。
見覚えのある景色が消えていく。
魔物も、村の人たちも。
最後に広場で歌うマリンの姿を見たとき、流れる涙を止める事は出来ないであろう。



 気が付くと海で漂流している。
夢を見ていたのか。
辺りに島など存在しない。

 どこからともなく、かぜのさかなの歌が聞こえる。
見上げると、悠然と空を往く巨大なかぜのさかなの影。



 それを見て笑みを浮かべるリンク。
そしてスタッフロールへ。

ちょっと最後の笑顔には違和感を感じる。
これだと冒険をやり遂げた達成感のように見えてしまう。
そこは何かを思い出すような寂しい笑顔じゃないのか。


 コンティニューなしでクリアすると、もう一幕見られる。
マリンがカモメになり、空へ飛んでいく事を示唆するシーン。
ただ無印はハエにしか見えないし、DX版は明示しすぎてる気がする。
カモメの群れから1羽だけ高く飛ぶ孤高の存在を見せるくらいが美しいと思う。
それを見て、上記のリンクの笑顔なら、納得する。


 マリンだけは、この世界の理(ことわり)を理解していたような表現はあるし、バッドエンドのような後味の悪さはない。
それでも、目覚めるとマリンが横にいるくらいの道は残して欲しかった。
そうすると平凡な物語になってしまい、ここまで心に残らなかったかもしれない。
さじ加減が難しい所か。





 夢をみる島は、強烈なシナリオと初期ゼルダの面白さを兼ね備えた名作である。
ネタバレしていても、その面白さが損なわれる事は決して無い。
ゲーマーを名乗るなら、ぜひプレイしておきたい1本だ。


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